連載 知的財産権⑨  特許の基礎知識4

法律関係トピックス, 知的財産法務

前回、特許権は、他人による特許発明の実施を禁止(差し止め)することができる排他的権利であることを説明しました。では、先に発明し製造・販売等していたものについて特許を取得していなかった場合に、後に他人が特許を取得してしまうと、その製造・販売についても禁止されるでしょうか?

特許制度は、独占権を付与することにより発明を奨励し、特許を公開することに技術の進歩・改良、ひいては産業の発展を図るものです。

もし、特許を取得していないからといって、先に発明した者の製造・販売まで禁止すると、特許を取得しない限りいつ差止請求を受けないとも限らず、独自に発明した技術の実施を委縮させ、かえって産業の発展を妨げることになりかねません。

そこで、特許法は、独自に発明をなした者自身(あるいはその者から発明を知らされた者)がすでに発明を実施している場合には、特許権侵害にならないと定めています。

これを先使用権と呼んでいます。

ただし、先使用権の範囲が広すぎても特許による発明公開の趣旨にそぐわないことから、特許出願の際、すでに発明の実施である事業をしているか、又はその準備をしていることが必要とされています。

この場合の事業の準備とは、判例により、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において、表明されていることが必要とされています。

ただし、いくら事業の準備をしていても発明が完成されていなければ、先使用権は認められないと考えられています。

以上のように、他人が特許権を取得したとしても、従来の実施を継続することができる場合がありますので、覚えておかれると良いでしょう。判断に迷われた場合は、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

続く

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