消費者の自己責任について

法律関係トピックス, 消費者事件

 世の中には、危険が全くゼロとまでは言えない商品やサービスがたくさんあります。身近な餅や団子でさえ窒息事故で救急搬送された人数が、5年間で608人(東京消防庁管内)にのぼるそうです。大げさかもしれませんが、消費者は常に様々な危険にさらされています。
 法律の世界では、消費者保護のため法律の解釈を工夫したり、新しく法律を制定して、危険な商品やサービスを提供した業者の責任がより広く認められるよう努めてきました。しかし危険を伴う商品やサービスを完全に無くすべきと考えられているわけでもありません。そのため、被害が生じても、業者には責任が認められず、商品やサービスを購入した消費者の自己責任とされることもあります。
 平成20年の事例で、中学3年生で水泳部の少年が、深さ1メートル、幅3メートルの楕円形上の流水プール(多くの利用者が浮き輪等につかまったりして流れに身を任して遊ぶプール)に頭から飛び込み(逆飛込み)、プールの底に頭を打ちつけて脊髄損傷等の重傷を負う事故がありました。少年は、小学5年生のころからこのプールを利用して、飛び込みが禁止されていることを知っていました。少年側は、利用者の安全に配慮する義務を怠った、プールの安全性には問題があった、として、プールを経営する会社を訴えました。裁判所は、警告板などで、流水プールの遊び方や飛込み禁止が明示され、少年も飛込み禁止を知っていたこと等から、少年の逆飛込みは流水プールの通常予定されていない利用方法であって、会社に安全配慮義務違反はないし、プールの安全性にも問題はないと判断しました。結局、少年側の訴えは認められませんでした。
 記憶に新しいところでは、蒟蒻畑という食品についての裁判もあります。平成20年、当時1才9か月の幼児が、蒟蒻畑を喉に詰まらせて窒息死するという事故がありました。一緒にいた大人(祖母)は、容器の上蓋を剥がしてあげた後に、小さく切り分けたり、幼児の側にいるといったことをしませんでした。両親がメーカーを訴えましたが、大きな争点は、蒟蒻畑の安全性に問題があったかどうかでした。裁判所は、平成20年当時、蒟蒻畑はこんにゃくが入っていて通常のゼリーとは違うことや誤嚥による事故が起きていることは多くの消費者に認知されていたこと、中身を吸い込まないように容器が工夫されていたこと、外袋で子どもや高齢者が摂取をしないよう警告がされていたこと等から、蒟蒻畑の安全性には問題がないと判断しました。祖母が配慮を欠いていた点については、蒟蒻畑の通常予想される食べ方とは言い難いと判断しました。結局、両親の訴えは認められませんでした。
 いずれの裁判例でも、通常予測されない利用方法により被害が生じたと判断されています。通常予測されない利用方法により被害が生じても、それは被害者の自己責任だということです。もちろん、どこまでが通常予測される利用方法といえるのか、どこまでが被害者の自己責任といえるのかについては、国や時代により判断が分かれるところでしょう。我々法律家も、頭を悩ませるところです。

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