★★【コラムメビウスの輪】「公正証書遺言なのに無効!?」★★ (弁護士小寺正史)

小寺弁護士, 弁護士ブログ

 公正証書遺言は公証人が作成します。しかし、これも絶対的なものではなく、最近の判例で無効とされたことがあります。

 では、公正証書遺言とはどんな要件が必要なのでしょうか。まず①「証人2人以上の立ち会いがあること」②「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること」が必要です。つまり、遺言する人が、自分の財産を誰にどのように相続させるかという具体的な遺言の内容を、直接公証人に話すことが必要です。この判例では、特に②の要件がされていないので、公正証書作成の要件に欠けるので、無効であると判断されたものです。

 ところで、公証人が遺言を作成する場合、公証人は遺言者の希望する遺言の内容を聞き取り、その内容に基づいて公正証書の条項を作成します。通常、聴取した日に条項を作成するのが時間的に難しく、若干日にちを要します。したがって、通常であれば少なくても2回は公証人役場を訪問する必要があります。
 高齢者が遺言をする場合、何度も公証人役場に赴くのは負担となります。それで、弁護士や親族などが遺言者の希望する遺言の内容を公証人に伝え、予め公証人に公正証書の条項を作成してもらうことがあります。この場合ですと、その後、遺言者が公証人役場へ出向き、公正証書遺言を作成してもらえますので、1回公証人役場を訪問するだけで足ります。
 このような場合、公証人は、予め作成した公正証書の条項が、遺言者の希望する内容かについて、内容を「読み聞かせ」たり「閲覧させ」たりで、十分確認した上で、公正証書遺言を作成することとなっています。

 判決の事例では、遺言者Aは公証人役場訪問前には高度の意識障害によりコミュニケーションが困難な状態になることもあり、公証人役場訪問後には救急外来を受診し意識障害を生ずるなどしており、遺言者Aには具体的な応答をできる程度の状況であったか疑義がある。また、遺言者Aが公証人に対して話したことは、「長女に全部」「夫にも」と話しただけである。しかし、公正証書には長女に2分の1、他の相続人5人に10分の1と記載されている。このようなことから、裁判所は公正証書の内容について遺言者Aが実際に話していないと判断したものでした。

 通常、公証人は、遺言者が遺言できる状態かや、遺言書の条項が遺言者の遺言したい内容かについて確認して、遺言書を作成します。しかし、希にその点が不十分として遺言が無効とされることがあるので注意が必要です。

(参考条文)

民法 第969条(公正証書遺言)
 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

民法 第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。

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