交通事故と損害賠償について
交通事故の損害には、人身損害と物件損害があります。
交通事故が起こった場合の損害には大きく分けると人身損害(いわゆる「人損」)と物件損害(いわゆる「物損」)とがあります。
さらに人身損害には、財産的損害と精神的損害があります。
財産的損害にはまたさらに、積極的財産損害と消極的財産損害とがあります。積極的とか消極的とか言うととても難しく聞こえますが、もう少しわかりやすく言うと、積極的財産損害とは、事故があったことによって実際に支出しなければならなくなった費用等の損害のことで、消極的損害とは、事故があったことによって、事故がなければ得られたはずの利益を得ることができなくなった場合の「失った利益」を損害とするものです。
精神的損害というのは、わかりやすく言うと慰謝料のことです。
損害の対応は保険会社が行うことも多くあります。
交通事故によって損害が発生した場合、損害賠償の義務を負うのは本来加害者となりますが、事故に関わる示談対応は加害者が加入している保険会社が行うことも多くあります。また、保険契約によっては、例えば車両保険のように、自分の加入する保険会社から保険金が支払われることもあります。この場合、本来は加害者が支払うべきものですので、支払った保険金相当額について加害者に対して請求(これを「求償」といいます)することもあります。
物件損害の具体的な内容について。
まず物件損害とは、人身損害以外の物的損害のことをいい、具体的には事故車両の修理費用、代車使用料、休車損(営業車の事故の場合、事故により使用不能になった車両を使用できていれば得られたであろう利益)等があります。
事故車両については、修理が可能であれば修理を行うのが原則ですので、全損扱いとならなければ車両を買い替えるのに必要な金額を請求することはできず、修理にかかった費用を請求することになります。ここで言う修理費用は修理することが相当であると判断される場合における適正な修理費用額が損害額となりますので、車両の損傷状況から考えて高額に過ぎる修理費用の請求は認められないことになります。
もっとも修理が不可能な程度に損傷した場合には、物理的全損として、車両の事故時における市場価格(購入価格)が損害額となります。ここで言う市場価格とは、同一車種、年式、型、同程度の走行距離等の車両を中古車市場で購入するための価格のことを言います。
また、修理費用相当額が車両の事故時における市場価格を超えてしまう場合は、原則として、経済的全損として扱われ、車両の市場価額が損害額となります。全損扱いとなった場合には、利益を二重に取得することのないように事故車の売却代金(いわゆるスクラップ代)は損害額から控除されることになります。
人身損害の内容について
人身損害とは、個人の生命や身体に対する侵害によって生じた損害をさし、「積極的財産損害」や「消極的財産損害」「精神的損害」があります。
積極的財産損害とは実際に出費を伴う損害をさします。
積極的財産損害とは、死傷の結果が生じた事故によって、財産が滅失毀損したり、実際に出費を余儀なくされたために生じた損害のことをいいます。具体的には、治療費、交通費、診断書作成費、付添看護費、葬儀費用等があります。
消極的財産損害とは、事故に遭わなければ得られたであろう利益をさします。
消極的財産損害とは、生存していたり、負傷していなければ得られたであろう利益を、得ることができなかったために生じる損害のことをいいます。具体的には、休業損害、逸失利益があります。
精神的損害とは、慰謝料をさします。
精神的損害とは、死亡あるいは傷害の結果、被った精神的苦痛に対する慰謝料のことです。
算定が難しく、損害額が大きいのが「消極的損害」です。
休業損害とは、事故による負傷の治療又は療養のために休業又は不十分な就業を余儀なくされ、その期間中に得られたはずの収入が得られなかったという損害のことをさします。休業損害における損害額は、基礎収入×休業期間という式によって算定されます。
ここでいう基礎収入は、実収入額に基づきます。実際には、給与所得者の方の場合には、勤務先から休業損害証明書を発行してもらったり、源泉徴収票や市町村長作成の課税証明書または所得証明書等の資料を準備することになります。会社役員の方の場合は、原則として役員報酬額となります。なお、主婦や家事従事者の方であっても、実務上休業損害は認められており、基礎収入は労働者賃金の統計表である「賃金センサス」の女子全年齢平均賃金の表を参考に算定される取扱いが定着しています。
逸失利益とは、事故がなければ将来にわたって得られたであろう利益のことを言います。傷害の場合は症状固定日まで、死亡事故の場合は死亡時までは休業損害となります。それ以降の損害は逸失利益として算定されます。
逸失利益には、事故により後遺障害が残ってしまった場合の後遺障害逸失利益と死亡の際の死亡逸失利益があります。後遺障害逸失利益は、基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応する中間利息控除係数という式で算定されます。基礎収入の考え方は休業損害とほぼ同じですが、まだ就労していない方は原則として、先に述べた「賃金センサス」を参考に算定されます。労働能力喪失率は認定される後遺障害が重度であるほど高くなりますので、重度であるほど逸失利益の額も高額となります。
保険加入の際の判断にもお役立てください。
万が一交通事故に遭遇してしまった場合に備えて、どのような損害の賠償が請求できるのかを知っておくことで、加害者から提示される損害額が適切なものかを検討することができるでしょう。
また、どのような損害の賠償をしなければならないかを知っておくことは、万が一事故の加害者になってしまった場合でも、被害者の方との適切な示談交渉ができます。さらに自らの加入する保険契約の内容を検討する際にも、大変参考になると思います。
賠償問題については、適切な判断をするために、私たちにお気軽にご相談くださるのもひとつの選択肢です。