【法律家の言葉】(弁護士 小野田)

小野田弁護士, 弁護士ブログ

法律用語や法律家の文章は難しいと言われがちです。文章についてはもちろん上手い下手の問題も大きいのですが,厳密さを追求する結果としてやむを得ず難解な表現になってしまうことがあるのも事実です。
法律用語ではなくとも,裁判所や法律事務所などで日常的に使われている用語にも,一般の方からみると馴染みのないものはあります。ある法律事務所で弁護士が新米の事務員さんに「これシンケンだから,記録作っておいて」と言って書類を渡したところ,新米事務員は「弁護士の仕事には真剣にやるものと不真面目にやるものがあるのか」と思った,という話があります。弁護士が言ったのは「真剣」ではなく「新件」です。新規の事件ということです。「事件」というのも,一般の方は物騒な犯罪を想起するかもしれませんが,法律実務では「案件」というほどの意味で使われています。弁護士に相談に行ったら「この事件は・・・」などと言われて驚いたり不愉快な思いをされた経験のある方もおられるかもしれませんが,その弁護士に悪意があるわけではありません。
法廷傍聴などをすると,「然るべく(しかるべく)」という訳のわからない言葉を耳にすることもあるでしょう。刑事事件で,被告人は本当は良い奴なんだ,二度と犯罪を繰り返すことはないよ,ということを立証するために,弁護人は,被告人の妻やら親やら勤務先の上司やらを「情状証人」として申請しますが,その直後,裁判官は「検察官,ご意見は?」と聞きます。これに対する検察官の答えは「然るべく」。例えばこんな形で使われます。私も検察官時代は数百回ではきかないほど使った言葉です。
さて,その意味ですが,「情状証人を採用して証言してもらうことについて,検察官としては特に反対するものではないので,裁判所が然るべく判断してください。」といった感じです。別に検察官だけが使う言葉ではなく,大雑把にいえば,訴訟当事者が「判断は裁判所におまかせします。」といった意味で使う言葉です。「然るべく」とだけ答えることが多いですし,裁判所の記録にも検察官の意見は「然るべく」とだけ残されるのが通例だと思いますが,気分次第で「裁判所において然るべくご判断ください」と丁寧に答えることもありましたね。
一般に通用しない用語はあまり使わない方がよいとは思いますが,それなりの歴史に根差した用語ですし,どの業界にも一般からみれば特殊と思われる用語はあるでしょうから,これくらいはお許しいただけないか,と思う次第です。

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