退職金支給における課税上の留意点
(平成26年5月寄稿)
年度末に定年退職された方もおられることと思います。ご存知かと思いますが、退職金は給与に比べて税負担が軽く済むよう配慮されています。もっとも、所得税法上の「退職所得」と認められるためには、退職という事実によって支給される所得としての実体を備えることが必要です。例えば、雇用期間を5年として5年ごとに「退職金」を支給しながら自動的に雇用期間が延長されているようケースでは、退職の実体がないため退職所得ではなく給与所得と認定されます。
法人の役員退職金の取扱い
実務上注意すべきは役員退職金です。役員退任後も「会長」や「名誉理事」等として法人運営に関する実権を持ち続けるケースが散見されますが、このようなケースでも退職の実体がないものとして給与所得と判断される可能性が高くなります。退任後も従業員として勤務するような場合には、役員としての業務から退き、業務内容が大きく限定されるなどの実体を備えることが、退職所得と認定される上で必要です。
「学院長」退任による退職金について争われた事例
この点に関する裁判例を紹介します。学校法人の理事長A氏は、学校運営に関する最終的な決裁権を持つ「学院長」の権限を後継者に譲り、「退職金」を受領しました。もっとも、その後もA氏は「学院長」の地位にありましたが、その業務は従前とは異なり、対外的な行事への参加等に限定されました。
課税庁は、「退職」の事実は認められないとして、A氏の受領した「退職金」は給与所得に当たると主張しましたが、裁判所は、A氏の職務は象徴的な業務に限定され、従前の「学院長」の職務内容とは性質を大きく異にすることから、A氏の受領した「退職金」が退職所得であると認めました。