株主総会の手続の不備をめぐる紛争
株主総会の手続の不備を攻撃する訴訟
中小規模の株式会社をめぐる法的紛争の代表例として、少数株主が、株主総会の手続の不備を攻撃するケースが挙げられます。つまり、法令で定められた手続を遵守していない不備(招集通知漏れ,招集の通知期間の不足,株主総会参考書類の記載不備など)について、経営権争いで敗北した者が、経営支配から排除された途端に、急にその不備を攻撃しはじめるというケースです。
こういった紛争の背景には、中小企業や同族会社などで株主総会を開催しないことが常態であったり、株主総会開催についての法定手続が遵守されず、その手続に不備がある会社が多いという事情があります。
決議取消判決が確定した場合に生じる不都合
さて、このような手続の不備を理由に、少数株主から株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項1号)を提起され、決議取消しの判決が確定すると、その決議は遡って無効になります。(会社法839条が834条17号を除外しているため。)例えば、取締役選任決議が無効となった場合、決議が取り消されるまでに取締役が行った対外的取引行為は有効か、報酬は返還すべきかといった問題が生じます。決議の内容によっては厄介な問題が生じかねませんから、会社側としては、普段から法律で定められた手続を踏んでおくことがベストなのはいうまでもありません。
早期に株主の真意を把握する
もっとも、総会決議の不備を攻撃し、決議取消しの訴えを起こす株主の真意が、勝訴判決を得ることではなく、和解によって金銭的清算を図ること(多数派へ自己保有の株式を売却し、投下資本の回収を図るなど)にある場合もあり、会社側は株主の真意を早期に把握し、適切な対処方法を考えることも必要です。
戦略として裁量棄却の手段も有効
株主総会決議取消しの訴えでは、たとえ株主総会決議の手続に法令又は定款に違反する不備があっても、①その違反事実が重大でない。かつ②決議に影響を及ぼさない。と認められ時は、裁判所は原告の請求を裁量で棄却することができます(会社法831条2項)。したがって、不備が軽微で、決議に影響を及ぼさないと考えられる場合、会社側としては、裁判所に対して裁量棄却を求めることも有効な手段です。