【GWの残念な出来事】(弁護士 堀岡)

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今年のゴールデンウィークのことです。
久しぶりに帰省しており,私たち家族と私の両親で遅めの昼食ということになったのですが,さすがゴールデンウィーク。どこも満席だったので,こじんまりとしたトンカツ屋に入ることになりました。ご主人夫婦とウェイトレスの女性1名で切り盛りしています。
妻は鶏肉の定食,私はヒレカツ定食を頼みました。
このお店は30年ほど前に何度か来たことがありましたが,味はすっかり忘れているので,どんな味かと楽しみにしていました。
ちょっと待たされて,「お待たせしました」と料理が登場。けれども,出されたのは,大きく1枚で揚げたカツを1~2㎝ほどで切ってあるもの。
「あれ,これロースカツ?」
疑問に思いながらも,注文のときにウェイトレスさんがちゃんと「ヒレカツ」と復唱していたことを思い出し,一口食べてみます。
「ん? やっぱりロースじゃない?」
隣のテーブルの母が頼んだロースカツを一切れもらいますが,同じ味な感じがします。いつも鶏肉がモモ肉なのかムネ肉なのかもよくわかっていないやや味音痴な私ですから,気のせいかな,と思い込もうとしますが,考え出すと全然美味しくありません。妻は妻で,キャベツが大量なのにドレッシングもマヨネーズも出されず,困惑しています。
そこで見渡すと,ウェイトレスさんは,昼休憩のようでとんかつを食べ始めていますが,冷蔵庫からちゃっかりとドレッシングを出して使おうとしています。「あるなら出してよ」と思い,ウェイトレスさんにドレッシングをお願いしました。持ってきてくれた彼女についでに聞いてみます。
「これってヒレ?」
その瞬間,ウエイトレスさんは「あっ・・・」と固まり,絶句(謝罪もなく,作り直しますという言葉もありません)。どうやら彼女の伝達ミスの模様。
「やっぱりね」と思いながら(やれやれという気持ちとロースとヒレをちゃんと判別できてちょっと嬉しい気持ちで複雑),私が「いいよいいよ」と言うと,頭を下げたような下げてないようなよく分からない感じで戻っていきます。ウェイトレスさんは,ミスをご主人夫婦に伝えることもなく,そのまま昼食を続けます。
いよいよ会計の段になり,まさかヒレの値段で請求されないよな,とドキドキしましたが,ちゃんとロースの値段で会計をしてくれました(ちなみに最後まで謝罪はなし)。
     
さて,法律的には,どのような理屈でロースの料金を支払ってちゃんと精算できたことになるのでしょうか?
まず,私はヒレカツ定食を注文し,ウェイトレスさんも注文を受けたのはヒレカツ定食だと認識していたので,ヒレカツ定食を提供するという契約が成立したことは明らかです。
そうすると,店はヒレカツ定食を提供しておらず,義務を果たしていないので,私に代金を請求することはできません。他方,私は,契約に基づいて提供されたのではないロースカツを食べてしまっています。私は,法律上の根拠なくロースカツを食べたということで,不当利得として,ロースカツの代金相当額を支払わなければならないのでしょうか? 間違いではない気もしますが,会計時には双方とも代金として支払っている認識ですので,まずは不当利得でない理屈を探すべきでしょう。
そこで考えられるのは,ロースカツが提供され,そのまま食べ始めた時点で,不完全ながらも店の義務が履行されているため,後は瑕疵担保責任の問題になるというものです。しかし,現行民法上,瑕疵担保責任が認められるためには,瑕疵が「隠れた」ものである必要がありますが,一見してロースだとわかるといえばわかるので,「隠れた」の要件は認められないような気がします。また,瑕疵担保責任だと,責任の内容は解除か損害賠償ですが,私は解除したつもりはないし,私に財産的損害が発生しているとも思えません(慰謝料請求権は考えません)。したがって,ヒレの代金請求権と損害賠償権を相殺してロースの代金となったと考えることはできないと思います。
もう1つ考えられるのは,私が「いいよいいよ」と言い,ウェイトレスさんがそれを了解した時点で,契約の内容(目的物)をヒレカツ定食からロースカツ定食に変更する合意(更改)が成立したというものです(なお,ここでの「更改」はプロ野球選手の契約「更改」とは意味が全く異なります)。ただし,既にロースカツを食べ始めた後に契約の目的物をロースカツに変更したというのも違和感があります。
何かいい説明はあるでしょうか?
なお,2020年4月1日から施行される改正民法では,代金減額請求により説明できるかもしれません。

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