最近の医療事故から CT画像診断による、ガンの見落とし(弁護士 小寺)

小寺弁護士, 弁護士ブログ

 最近のニュースで、CT画像にはガンの病巣が映っていたのに、これを医療機関が見落としたために、治療が遅れて死亡した医療事故について報道されました。
 医療が発達し、様々な検査方法が開発されて、ガンの早期発見、治療が可能となっています。しかし、医療機関の画像診断ミスにより、CT画像に映っているにもかかわらず、病気の発見が遅れ,治療が手遅れになることは患者にとっては耐えがたいことです。
 原因となる画像の見落としについては、いくつかのパターンがあるようです。パターンに分けて医療過誤事件の対応について説明します。
     
1 専門医が見落した場合
・CT画像から明らかにガンと見て取れるにもかかわらず、専門医が見落とす場合があります。この場合は専門医の過失は明らかです。
・ガンかどうか微妙な画像の場合には、医師に過失があるかどうかの判断は難しいものがあります。専門医であれば、通常、読影が可能であったのであれば、過失が認められることになります。しかし、実際上の判断は非常に難しいものがあります。
実務的には、医師のミスかどうかを判断するために、別の専門の医師に相談してアドバイスを受けることになります。
     
2 診療科間での情報伝達にミスがある場合
 CT画像の読影は難しいため、放射線科の医師が専門的に行っている病院があります。このような病院では、主治医の指示により放射線科でCT画像を撮影し、放射線科の医師が画像の読影結果を主治医に報告するシステムになっています。主治医は、自らCT画像を見るだけでなく、画像読影の専門的なスキルのある放射線科の医師のバックアップにより、診断を確実にするシステムです。
 しかしこのシステムでも、主治医が放射線科の医師の報告を見落として、ガンを見落とす場合があります。最近の大学病院でのCT画像の見落としの医療ミスは、このような事例が多いようです。
 実務的には、カルテの開示により、放射線科の医師の報告書を入手できますので、これが治療に反映されていなければ医師の過失の認定が容易となります。
     
3 健康診断での見落とし
健康診断で、レントゲン検査やCT検査を受けた折に、異状が認められれば、検査結果を伝えて、専門医の治療を受けるように助言すべき義務があります。ところが、画像診断で見落としがあり、異状に気づかない場合があります。
実務的には、健康診断の資料を専門医に検討してもらい、見落としといえるかアドバイスを受けることになります。
     
4 専門外の病気に関する画像の判断
 例えば、循環器の専門病院では心臓のCT画像を撮影しますが、肺が心臓の近くにあるためにCT画像には肺の映像も映ります。この場合、肺にガンなどの病気があれば当然CT画像にも映ります。
 循環器の専門医でも一定程度のCT画像の読影力は求められます。肺の異状が認められる場合、その旨説明し肺の専門医の診察を受けるように助言する義務があります。
 もちろん、専門外の病気に関して、専門医あるいは放射線科の医師のような高度の読影力が求められるものではありません。
 実務的には、専門外の医師について、画像の読影力についてどの程度責任を課すかは難しいものがあります。医師の一般的なレベルについて、他の医師のアドバイスを受けたり、医科大学における教科書等の文献を参考に検討することになります。

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