【交通事故の加害者と、医療過誤の責任問題】(弁護士 小寺正史)
交通事故にあって重傷を負い、救急車で病院に搬送されたが、医療過誤があり、結局死亡した場合、責任問題はどうなるでしょうか。
運転者は、交通事故で重傷を負わせ、その結果、被害者が死亡した場合、死亡したことによる損害について賠償責任があります。
しかし、交通事故で重傷を負った場合でも、病院で適切な治療を受けることにより、助かる場合があります。ところが、医師の判断ミスにより適切な治療を受けることができず死亡した場合には、医師に賠償責任があります。
このような場合、運転者と医師の両方に賠償責任が生じ、運転者と医師は被害者の被った全損害について連帯して賠償義務を負います。連帯して賠償義務を負うということは、運転者も医師も被害者の全損害について賠償義務を負い、他方が支払えば、その限度で被害者に対する賠償金額が減少するということを意味します。
被害者は、運転者にも、医師に対しても全額の賠償請求をすることができます。しかしこれは、運転者に対しても、医師に対しても、全額の請求が可能ということで、仮に医師から賠償を受けた場合、その賠償を受けた金額については運転者に請求することはできません。決して2倍の金額を受け取れると言うことではありません。
判例
6歳の男児が自転車を運転中にタクシーと接触・転倒し、救急車で病院に搬送された。
医師は男児の頭部と顔面に軽度の挫傷を認めたが、受傷を軽微なものと考え、頭部CT検査や病院内で相当期間経過観察する必要はないと判断して、男児を帰宅させた。
男児は深夜に容態が悪化し、死亡。
死因は骨折により左中硬膜動脈が損傷して生じた急性硬膜血腫でした。
最高裁判所の判決
本件交通事故により、男児は放置すれば死亡に至る傷害を負ったにもかかわらず、事故後搬入された病院において、男児に対し通常期待されるべき適切な経過観察がなされなかった。もし脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性を持って男児を救命することができた。
本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、男児の死亡という不可分な結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にある。
したがって、本件医療事故の運転行為と、本件医療事故の医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負う。