【不貞相手に対する離婚慰謝料】 (弁護士 堀岡)
本日,注目すべき最高裁判決が出されました。ニュースでご覧になった方も多いでしょう。
事案は,元夫が,元妻と不貞関係にあった第三者に対し,この不貞のために離婚をやむなくされたとして慰謝料請求をしたというものです。法曹の世界では,不貞により生じた慰謝料を不貞慰謝料,不貞等の有責行為を原因とする離婚により生じた慰謝料を離婚慰謝料と呼んでいますが,元夫が不貞相手に離婚慰謝料を請求したということです。元夫が不貞関係を知ってから3年以上経過しており,不貞慰謝料は時効にかかっていたため,元夫としては離婚慰謝料を請求するしかなかったようです(離婚慰謝料は離婚から3年経過しないと時効にかかりません)。
第一審と控訴審はいずれも離婚慰謝料を認めたのですが,不貞相手が最高裁に上告しました。最高裁が弁論を開いたことから,不貞相手に対する離婚慰謝料を否定するのではないかと推測されていたところでした。
最高裁は,離婚は本来夫婦で決めるべき事柄であるとして,「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」と判示し,元夫の請求を棄却しました。
離婚は本来夫婦で決めるべき事柄だとしても,不貞により婚姻関係が破綻し離婚を余儀なくされた場合であれば,配偶者に対してだけでなく不貞相手にも離婚慰謝料を認めるべきだという判断も充分あり得るでしょう。
しかし,最高裁が上記のように判断した以上は,今後は,「特段の事情」が争点になっていくでしょう。例えば,不貞相手が,不貞関係にある配偶者に,離婚して自分と再婚をするように執拗に求め(①),他方配偶者にも直接離婚を求める(②),といった事情があれば(ドラマの見過ぎ?),特段の事情が認められることになりそうです。①だけで認められるかどうかは,判断の分かれるところでしょう。ともあれ,「特段の事情」は慰謝料を請求する側に立証責任があると思われますので,不貞相手に離婚慰謝料を請求するのはハードルが高そうです。代理人としては,念のため不貞慰謝料も請求しておく必要があるでしょう。