【人間らしく、自然死を選択する「尊厳死宣言」】 (弁護士 小寺正史)
【人間らしく、自然死を選択する「尊厳死宣言」】
(弁護士 小寺正史)
尊厳死宣言とは、不治の状態に陥り、回復不可能な場合に延命治療を拒否することを宣言するものです。意識不明の場合には、自ら拒否することは困難ですので、このような場合に備えて、あらかじめ宣言し、家族等に延命治療をしないように要請するものです。公証人役場では、尊厳死宣言公正証書として作成する場合もあります。
現代では、医療の進歩により様々な治療ができるようになっています。その結果、意識不明の状態でも胃瘻や点滴などにより、長期間生きることができるようになりました。しかし、このような状態で生きることを望まない方々もいます。
現実には、親が意識不明の状態で、医師から胃瘻等の延命治療の判断を求められたとき、患者本人の意思が明確でないと、子供達は迷い、兄弟間で意見の対立が生じ、軋轢が生ずることもあります。
どうするか決めかねている人は、子供達の判断に委ねれば良いと思います。しかし、明確に延命治療を拒否するのであれば、延命治療を拒否する意思を文書で明らかにした方が良いと思います。
延命治療といっても様々な場合があります。それについてどこまで、拒否するかは微妙です。もし、延命治療を拒否する文書を作成するのであれば、その点も明らかにした方が良いでしょう。
末尾にある「治療についてのお願い」の文書を参考にして下さい。
なお、参考例では、1項①の記載のとおり、不治の病の診断について記載していません。これは主治医の判断で十分との前提があります。この判断をより一層、慎重にするために、下記のように記載する例もあります。
「私の疾病が現在の医学では不治の状態に陥り、既に死期が迫っていると担当医を含む2名以上の医師により診断された場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。」
(参考)
「医療についてのお願い」
医療の発達は目覚ましいものがありますが,私の身体が限界を迎えた時,私は命を永らえることを望みません。自分の寿命を受け入れたいと考えています
そこで、医療に関して次のように希望します。
1 延命治療について
① 私の疾病が現在の医学では不治の状態に陥り、回復不可能,意識不明の場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。
② しかし、私の苦痛を和らげる処置は最大限に実施してください。そのために、麻薬などの副作用により死亡時期が早まったとしてもかまいません。
2 意識不明や正常な判断力が失われた場合の医療について
① 経口摂取が不能になれば寿命が尽きたと考え、経管栄養、中心静脈栄養、末梢静脈輸液は行わないで下さい。ただし、治療のための一時的な場合は別とします。
② 人工呼吸器が装着された場合、改善の見込みがなければ、取り外して下さい。
③ 人工透析は継続しないで下さい。
人工透析継続中に、意識不明や正常な判断力が失われた場合、改善の見込みがなければ中断して下さい。
3 医師も家族も私の意思に従い、私が人間として尊厳を保った安らかな死を迎えることができるようご配慮ください。
4 私のこの要望を忠実に果たしてくださる方々に深く感謝申し上げます。
そして、その方々が私の要望に従ってされた行為の一切の責任は、私自身にあります。警察、検察の関係者におかれましては、私の家族や医師が私の意思に沿った行動を執ったことにより、これらの者を犯罪捜査や訴追の対象とすることのないよう特にお願いします。
5 この文書は、私の精神が健全な状態にあるときに作成したものであります。
したがって、私の精神が健全な状態にあるときに私自身が撤回しない限り、その効力を持続するものであることを明らかにしておきます。
年 月 日
住所
氏名 ㊞