【違法収集証拠排除法則】(弁護士 堀岡)

弁護士ブログ, 堀岡弁護士

職業柄,ヤフーニュースで裁判関係のニュースがあれば,コメント欄(ヤフコメ)をチェックしています。法律家の常識と非法律家(一般人)の常識が違っていることに気付かされ,確かに再考の必要もあるかもしれないと思うこともあれば,一般人には正確に理解されておらず,法律家が説明に努めなければならないと思うこともあります。
つい最近あったニュースでは,被告人が覚せい剤の「使用」で起訴された事案で,裁判所が,尿の鑑定書を証拠として採用せず,無罪を言い渡した,というものがありました(2019年9月25日)。捜査の過程で,麻薬取締部が内偵捜査で被告人がゴミ置場に捨てた覚せい剤入の袋を取得した後,家宅捜索の際にこの袋を室内に置き,それを押収した,という事情があったようです(おそらく,捜索の際に覚せい剤の「所持」で現行犯逮捕し,その後尿鑑定を行い,陽性の結果を踏まえて「使用」で起訴したものと思われます)。
コメントは,大別して,A)捜査の違法性が重大なので,証拠を採用しなかったのはやむを得ない,として判決に賛成するもの,B)覚せい剤を使用したことが明らかである以上有罪とすべきであり,違法捜査についてはそれを行った捜査官を処罰すること等により対処すべきである,として判決に反対するものです。
たくさんのコメントがありましたが,気になるのは,いずれも,最高裁の違法収集証拠排除法則を知った上でなされたのではなさそうだ,という点です。違法収集証拠排除法則とは,証拠の押収等の手続に重大な違法があり,違法捜査の抑止のためにその証拠を採用しないことが相当な場合には,その証拠を採用しない,というルールで,刑事訴訟法に定めはありませんが,最高裁が解釈により認めているものです。このルールによると,証拠収集の手続に重大な違法があれば,被告人が犯罪を犯したことが明らかであっても,証拠が採用されず,検察官が証拠により被告人が犯罪を犯したことを証明できなくなる結果,無罪となることがある,ということになります(証拠が排除されても他の証拠により証明できれば無罪にはなりません)。法律家の中では,このルール自体には異論が無く,意見が分かれるのは,個別の事案でこのルールを適用するかどうかという場面です。とはいえ,裁判例の集積を踏まえて,この程度の違法であれば証拠排除すべき,あるいは排除すべきでないという大体の感覚は共有されていると思います。そうした感覚からすると,上記の事案では,違法の程度は極めて重大で,証拠排除すべきことは明らかだと思います(隣の弁護士にも聞いてみましたが,同意見でした。裁判官もあまり悩まなかったのではないでしょうか)。
この投稿をご覧頂いた一般の方は,最高裁が違法収集証拠排除法則というルールを採用していることをご存じだったでしょうか? このルール自体が不適切と思うでしょうか,それともルール自体は良いとしても,今回の事案で証拠排除を認めたのは不適切だと思うでしょうか?
次回の担当回も,ニュースをネタにご紹介できるものがあれば書いてみたいと思います。

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