【コロナウイルスと不可抗力】(弁護士 橋田)

弁護士ブログ, 橋田弁護士

 北海道内において新型コロナウイルスの感染が拡大しています。都道府県別で見ると独走状態です。
 残念なことに,北海道は,①中国人観光客に人気がある。②春節と雪まつりの時期が近い。③極寒で免疫力が低下しやすい。④極寒で室内空間の機密性が高い(そこに人が集まる)。⑤喫煙率が高いなど,ウイルスが蔓延しやすい諸ファクターを備えてしまっているため,多数の中国人観光客が押し寄せた後にウイルスの感染が急速に広がることは,予想していた人が多かったのではないでしょうか。
 いずれにせよ,多数の中国人観光客を受け入れ,予想されたリスクが現実化してしまった以上,各々がマスク着用,手指のアルコール消毒,うがいや水分補給,人混み,他人との距離が近い密閉空間を避ける,健康に留意した生活により免疫力を高めるなど,基本的対策をしっかり取っていくしかないと思います。
 
        

 さて,このような当事者のコントロールを超える偶発事象が発生した場合,契約において問題となるのが「不可抗力」条項です。不可抗力により契約上の債務(金銭債務以外)を履行できない場合に,その義務を減免される旨の規定です。
 英文契約書では,不可抗力は伝統的に「force majeure」(フォース・マジュール)というフランス語で表現され,和文契約書より具体的事象が延々と例示列挙されているのが通常です。これは具体的事象を例示しないで抽象的文言のみで記載すると,列挙した事項以外を裁判所に狭く解釈されるおそれがあるためと言われています。
 不可抗力として列挙されるのは,まず,地震,津波,台風,火山噴火,洪水などの天災事変,自然災害があり,これらは「act of God」(神の御業)と総称されることもあります。加えて,人が起こす戦争,革命,暴動,さらにはストライキやロックアウトなどを記載する場合も散見されます。これらは当事者がコントロールできない外的事由だと考えるのです。

        
 では,新型コロナウイルスの感染拡大が不可抗力にあたるかという点ですが,過去に私が起案したか,チェックした契約書をざっと確認すると,「(contagious) diseases」「epidemics」等々の関連する例示を書き込んでいる契約書は少数ですがありました(今後は必ず入れるようにします。)。
 契約書の記載から不可抗力にあたるか明確でなく,訴訟まで発展した場合は,裁判所によって契約準拠法に基づいて最終的に判断されることになりますが,例えば契約準拠法が中国法の場合,中国契約法では「不可抗力」とは「予見不能、回避不能、克服不能の客観的な状況」の存在をいうと規定しており,新型コロナウイルスの感染拡大は,これに該当するものと解釈するのが自然です。
 そして,新型コロナウイルス(及びこれに関する中国政府の対応)について,中国国際貿易促進委員会(CCPIT)が不可抗力にあたる事実が発生したとする証明書を発行していますので,裁判においても不可抗力該当性を主張する当事者にとって重要な証拠資料になるのではないかと考えます。

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