【京都銘菓「八ッ橋」元禄2年創業をうたうことは法律違反か?】(弁護士 小寺正史)
不正競争防止法は、消費者が誤認するような表示をして商品を販売することを禁止しています(不正競争防止法2条1項20号)。
誤認するような表示をして販売することは、不正な競争・アンフェアな競争であるとして、競合する業者からの差止などを認めています。
この法律に基づいて、京都銘菓「八ッ橋」の老舗2社が、「八ッ橋」の創業年を巡って裁判を展開しています。
「聖護院八ッ橋総本店」は元禄2(1689)年創業とうたい、ライバル会社の「井筒八ッ橋本舗」は文化2年(1805)年創業をうたっており、両社とも「八ッ橋」の老舗です。
「井筒八ッ橋本舗」は、「聖護院八ッ橋総本店」が商品やパンフレットなどに元禄2(1689)年創業と表示して販売しているが、この創業年は事実と異なり、誤認するような表示であると主張して、京都地方裁判所に訴えを起こしました。
文化2(1805)年創業をうたう「井筒八ッ橋本舗」としては、「聖護院八ッ橋総本店」の元禄2(1689)年創業は虚偽であり、「井筒八ッ橋本舗」こそが本家本元であると言いたいのかもしれません。
京都地方裁判所は、今年6月に原告の請求を棄却し、「井筒八ッ橋本舗」敗訴の判決をしました。判決は、創業年の根拠として、近世箏曲の開祖である八橋検校を由来とする聖護院の説は「全てにわたり誤りであるという確実な証拠はない」と認定し、また、消費者にとっては「江戸時代に創業したとの認識をもたらす程度」とし、表示が商品選択を左右するとまではいえないと認定しています。
京都地方裁判所は、不正競争防止法の趣旨から、消費者の商品選択に影響のない表示について、目くじら立てることはないと考えたものと思われます。
なお、「井筒八ッ橋本舗」は、京都地方裁判所の判決を不服として大阪高等裁判所に控訴したと報道されています。
ライバル企業が裁判を活用して相手方を牽制することは時としてありますが、200年以上前の創業年を巡って争うのは珍しいといえます。
まだ、「八ッ橋」訴訟は続きます。