【同性婚訴訟判決】(弁護士 小野田)
札幌地裁が令和3年3月17日に言い渡した判決は、多くのマスコミによって「同性婚を認めないのは憲法違反」といったタイトルを付けられて全国的に大きく報じられました。
もっとも,この判決を「同性婚を認めないのは憲法違反」と判断したものとするのは,不正確であるか,少なくとも誤解を招きかねない表現ではないかと思っています。
同性婚を認めないことが違憲だといってしまうと,その違憲状態を解消するためには同性愛カップルにも現行の婚姻制度を開放し,異性愛者と全く同じように婚姻することを認めるしか方法がないように受け止められます。
しかし,この判決は,「同性間の婚姻や家族に関する制度は,その内容が一義的ではなく,同性間であるがゆえに必然的に異性間の婚姻や家族に関する制度と全く同じ制度とはならない(全く同じ制度にはできない)」「生殖を前提とした規定(民法733条以下)や実子に関する規定(同法772条以下)など,本件規定(引用者注:異性婚のみを認めている現行の戸籍法及び民法の規定)を前提とすると,同性婚の場合には,異性婚の場合とは異なる身分関係や法的地位を生じさせることを検討する必要がある部分もあると考えられ,同性婚という制度を,憲法13条の解釈のみによって直接導き出すことは困難である。」「婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものであることからすれば,立法府が,同性間の婚姻や家族に関する事項を定めるについて有する広範な立法裁量の中で上記のような事情を考慮し,本件規定を同性間にも適用するには至らないのであれば,そのことが直ちに合理的根拠を欠くものと解することはできない。」などとしつつ,「異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても,その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない。したがって,本件規定は,上記の限度で憲法14条1項に違反すると認めるのが相当である。」としているものです。
このように,本件判決は,現行法が婚姻制度の利用を異性愛者に限り,同性愛者には認めていないことを単純に違憲と判断したわけではなく,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供していないことを差別的取扱いであって違憲としているものです。これによれば,例えば,現行法上の婚姻制度とは別に、パートナーシップ制度の進化版など,同性カップルのために、婚姻によって生じる法的効果の全部または一部を享受できるような制度を作る(法的手段を提供する)ことによって不合理な差別を解消するという方法も考えられることになるでしょう。