【医療過誤の体験から】(弁護士 小寺正史)
私は高校3年生の夏に、ある医師から胆嚢炎で絶対安静を命じられていました。その後、他の医師の診察を受けたところ胃炎であり胆嚢は問題ないとの診断で、前医の誤診が判明しました。
当時は、胆嚢炎でなくて良かったと単純に喜び、2度とあの病院にはいかないと思った程度でした。
しかし、弁護士になった現在は、お金の問題ではなく、このようないい加減な医師を放置していては、そのうち命にかかわる問題になるのではと考えています。
私は、帯広三条高校に隣町の幕別町から汽車通をしていました。
高校3年生5月頃から腹部の調子が悪くなり、帯広駅のすぐ近くの病院で診察を受けました。その病院の院長は、レントゲン写真を示して胆嚢炎で胆嚢が腫れている。神経を使ってはいけない、振動も良くないと説明しました。母は心配して、汽車での通学はどうですかと尋ねたところ、汽車の振動は良くないとのことでした。それで、その病院に入院することになりました。
学校へは行っても良いとのことでしたので、病院から高校に通い7月初旬に前期末の試験はかろうじて受けることができましたが、最悪の結果に終わりました。当時の担任は厳しく指導する先生でしたが、病気だから仕方がない、しっかり療養するようにと成績のことは何も言わず、励ましてくれました。
前期末試験後、退院し自宅で療養することとしました。医師からは神経を使ってはいけないと言われていましたので、高校3年生の夏は勉強もせずのんびり過ごしていました。やることがないので、近くを流れる、十勝川に出向きなんとなく過ごしました。大学受験については考えようもなく、真っ青な空に浮かぶ雲を見ながら、今後どうなるのだろうかと漠然と不安を感じたことは今でも記憶してます。
夏休み後も体調は一向に回復しませんでしたので、他の病院で診察を受けました。その病院では検査の結果、胃炎との診断でした。医師はレントゲン写真を見ながら説明してくれました。その際、どう見ても、前の医師から見せられた映像と同じでしたので、私は胆嚢が腫れていませんかと質問しました。医師は、胆嚢は腫れていない、通常の大きさであると説明しました。結局前の医師は、胆嚢の大きさを誤認し、胃炎を胆嚢炎と誤診したものでした。
9月からは新しい病院で治療を受け、通学して高校生活を始めることができました。しかし、受験勉強にブランクがあり担任の先生からは、大学受験は焦らず来年に向けて頑張るようにと励まされる状況でした。たまたま勉強しているところが出題され、大学に入学することができましたが、今考えると幸運としかいえません。
胆嚢炎でないとわかったときは、普通に通学できることを単純に喜びました。2度とあのヤブ医者の病院にはいかないと思った程度でした。
しかし、弁護士になって考えると、誤診に対して何もしないことは間違いであると思うようになりました。誤診を放置すると、その医師はその後も誤診する可能性があります。私の例でいいますと、胆嚢の大きさを間違って理解していますので、胃炎の人が胆嚢炎と誤診される被害に遭う可能性がありました。
私は、弁護士になって病院の顧問などもしており病院から相談を受けることもあります。その際、もし医師にミスがあれば、率直に説明すべきとの方針で相談を受けしています。これまで、この方針に反対されたことはなく、多くの医師は誠実で良心的なのだと信じています。
しかし、残念ながら、患者さんからの相談では医師が不誠実な対応をしている事例もあります。医師が不誠実であるとしても、それが医療過誤とは限りません。
医療行為について、過誤かどうかの判断は難しいものであり、結果がうまくいかないからといって医師に過失があるとは限りません。疑問があれば、カルテを取り寄せ、専門家の意見を聞くなどして調べることが必要となります。
医療過誤事件は大変難しいものですが、この取り組みは弁護士として必要なことと痛感しています。