勝てる税務訴訟 「生命保険年金二重課税訴訟」を題材に

税務訴訟・税務関連業務, 税務

(平成22年12月寄稿)

例えば今、税務署長から「増額更正」の通知を受け取ってしまった場合、あなたならどうしますか。そのまま支払うか?否です。更正通知書が届いたけれど,理由に納得できないのであれば、ぜひ前向きに税務署長や国税不服審判所に不服申立てをし,それでも処分が覆らないときは訴訟を起こす事をお勧めします。
税務訴訟といえば,少し前まで勝てない訴訟の代名詞のように弁護士の間で言われていましたが,近年納税者勝訴の判決が増加しているのに伴い,脚光を浴びています。そこで今回は,納税者が勝訴した裁判の一例を紹介、今後の税務訴訟への取り組みの指針にしたいと思います。

年金タイプの生命保険の受取に対する税金の徴収

夫に先立たれたAさんは,生命保険金を受け取ることになりました。Aさんのような相続人が手にした生命保険金は,民法上相続財産ではなく受取人固有の財産ですが,税法上「みなし相続財産」として相続税が課されます。ただし,この「みなし相続財産」は「非課税所得」として所得税は課されません。同じ利益に二重に課税しないよう法律が調整を図っているのです。もっとも,Aさんの保険金は年金タイプのものであり,その場合の「みなし相続財産」とは毎年支払われる年金ではなく,その基となる「年金を受給する権利」であり,その時価を基準に相続税が課されます。
問題となったのは,税務署が国税庁の出した通達に従い,年金受給権には相続税を課しながら毎年支払われる年金に対して別途所得税を課したという点です。その根拠は年金受給権と毎年の年金は別の財産である,というものでした。これに対してAさんは,毎年の年金は「非課税所得」であると主張して,更正処分の取り消しを求めて訴訟を起こしたのです。
Aさんの訴えに対して,一審は請求認容,控訴審は請求棄却でした。Aさんの上告を受けて最高裁は,年金受給権の価値は,将来受け取る年金の相続時点での価値の合計額に相当することから,年金受給権に相続税を課しつつ毎年の年金に所得税を課すことは,同じ価値に二重に課税するものであり許されないとして,Aさんの請求を認めました。

最終的には司法の判断が拘束力を持ちます。

課税には当然法律の根拠が必要ですが,法律は実務の細かい点についてまで規定を置いていないため,課税実務では「通達」が重要な役割を担っています。しかし,「通達」はあくまで行政による法解釈にすぎず,課税が適法かどうかは,今回の事例のように最終的には司法の場で判断されることです。

ところが,訴訟の担い手である弁護士が必ずしも税務に精通しておらず,そのことはこれまで税務訴訟が活発でなかった理由の一つであるといえます。しかし近年,税務訴訟を取り扱う弁護士が増え,税務訴訟に特化した法律事務所も見られるようになりました。当事務所も積極的に税務訴訟に取り組んでいきたいと考えていますので,冒頭のような場合にはお気軽にご相談下さい。

※「更生」とは、納税者が申告した税額を、税務署長が是正し、税金の減額、あるいは増額を行うことをさします。

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