【「義務の履行確保」雑感~養育費のことなど~】(弁護士 小野田)
法律で人の行動をコントロールしようとするとき,いろいろな手段が取られています。
最も厳しいのは,違反した場合には制裁を課すという方法です。例えば,犯罪を犯せば刑罰が課されますし,ほかにも,行政処分を受けたり,損害賠償義務が課されたりするといった方法もあります。行政処分を受ければ各種の営業許可や免許を取り消されて商売や運転ができないとか,損害賠償義務を課されるとお金を支払わなければならず,支払わない場合には差押え等の処分を受けるといったことになります。
逆に緩やかなのは「努力義務規定」といわれるもので,条文上は「~に努めなければならない。」といったものです。努力しなかったからといって制裁を受けることはないというのが一般ですが,行政のガイドラインを見ると結局そのようにしないと不利益を受けるとか,努力をしていないことが違法性の根拠の一つとなって損害賠償義務を負うことにつながる,といったこともあり得ます。
このように,人の行動をコントロールする手段は様々なのですが,養育費の場合はどうでしょうか。離婚した非親権者は子どもの養育費を支払わなければならない義務を負いますが,その義務を守るようにするため,法はどのような手段を用意しているのでしょうか。
我が国の場合,家庭裁判所が養育費支払義務の履行を勧告したり,命令したりする制度も用意されています。しかし,不真面目な非親権者に対しては実効性が大きくないため,実際には,非親権者の給料や預金を差し押さえるといった方法を用いることになります。
ところが,これが可能なのは,非親権者の所在や勤務先等が分かっている場合に事実上限られます。しかし,それを把握するのは簡単ではないことが多いのも現実です。そうなると,泣き寝入りするほかない,という結果になってしまうこともあります。
諸外国では,養育費支払義務の履行を確保するために,国の責任において非親権者の所在や勤務先を特定し,給料の差し押さえ等が可能となるよう援助しているところもあります。
さらに注目されるのは,養育費の支払義務の履行を怠っている者に対して,各種免許の停止,口座の凍結,パスポートの回収といった制裁を課しているところもある,ということです。
確かに,これらの手段は強力です。広くこのような制裁を認めるのは問題があるかもしれませんが,子どもの生活に直結する養育費の支払いを確保するための手段としては我が国でも考えられていいように思います。