【輸出管理とホワイト国】 (弁護士 橋田)

弁護士ブログ, 橋田弁護士

日本政府が,近時,輸出管理における「ホワイト国」から韓国を除外する決定をしたこと、これに対して韓国側が反発していることが話題になっています。今回は「輸出管理」「ホワイト国」とは何かについて基本的な説明をしたいと思います。
        
 昨今も北朝鮮のミサイル等の発射が続いていますが,ミサイルなどの大量破壊兵器または通常兵器の開発等に用いられる貨物・技術は,軍事用にも民生用にも用いられるもの(デュアル・ユース)が多いため,そういった貨物・技術が懸念国(政情不安定で戦争が勃発しそうな国々)等に流入して軍事用途に用いられることを防ぐため,世界的に国際輸出管理レジーム(ワッセナー・アレンジメント,原子力供給国グループ,オーストラリア・グループ,ミサイル関連技術管理レジーム)による輸出管理が行われています。
 我が国でも上記レジーム等の合意に基づき,外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」)による厳格な輸出管理を実施しています。
 その規制は,「貨物」の輸出と「技術」の提供に関するものに分けられ,規制方法としては,①貨物または技術の種類・スペックに着目した「リスト規制」と,これを補う②用途・需要者に着目した「キャッチオール規制」により構成されます。
        
(1)貨物に関するリスト規制(外為法48条)
 特定の種類(輸出貿易管理令別表第1の1~15 ※末尾参照)及びスペックに該当する貨物を輸出しようとする者は,原則として経済産業大臣の輸出許可を得る必要があります。「輸出の時点」は,運用通達によって「貨物を本邦から外国へ向けて送付するため船舶又は航空機に積み込んだ時」と定義されています。
 例外的に,輸出貿易管理令4条1項の特例を適用できる場合は,輸出許可が不要です。すなわち,①本邦から輸出された貨物であって,本邦において修理された後,仕様変更なく再輸出されるもの(※北朝鮮を仕向地とするものは×),②本邦において開催された博覧会,展示会等に外国から出品された貨物であって,当該博覧会等の終了後返送されるもの,③他の貨物を運搬するために使用されるもの(いわゆる「通い容器」。ただし「特定国」すなわちイラン,イラク,北朝鮮を仕向地とするものは×)。④本人の使用に供すると認められるもの(パソコン等)などです。
 また,特定国を除く国々を仕向地とする場合,輸出額が一定額以下であると許可が不要となることがあります(少額特例)。
        
(2)技術に関するリスト規制(外為法25条)
 次に,特定の種類(外国為替令別表 ※末尾参照)及びスペックの貨物の設計,製造,使用に係る技術を,①外国で提供することを目的とする取引を行おうとする居住者・非居住者,②非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は,原則として,当該取引について役務取引許可を得る必要があります。口頭,電話,メール,ストレージ等による技術提供も上記取引に該当します。
 ただし,貿易関係貿易外取引等に関する省令9条2項に該当する場合は,許可が不要です。①公知の技術,②基礎科学分野の研究活動における技術(特定の製品の設計又は製造を目的としないもの),③工業所有権の出願又は登録に必要な最小限の技術,④貨物の輸出に付随して提供される使用に係る技術(例:操作マニュアル),⑤市販のプログラムなどです。
        
(3)キャッチオール規制(キャッチオール規制通達)
 リスト規制の難点は,所定のスペックを下回った場合は輸出許可が不要となる点です。これを補完するため,「ホワイト国」以外の国に対する輸出につき,「用途」「需要者」に着目したキャッチオール規制があります。
 すなわち,輸出者が入手した文書その他から,輸出・提供する貨物・技術が大量破壊兵器,通常兵器(国連武器禁輸国対象)の開発等に用いられるとの情報を得た場合(用途要件),需要者が大量破壊兵器の開発などに関与しているとの情報を得た場合(需要者要件),経済産業省より許可を得るよう通知を受けた場合(インフォーム要件),許可申請が必要となります。なお,口頭での技術提供はキャッチオール規制の対象外です。
        
(4)包括許可
 規制対象となる貨物・技術については、原則として個別に許可申請が必要ですが,機微度が低い品目に関しては,一括して許可をしてもその輸出等が国際的な平和安全の維持を妨げることがないと認められる場合,経済産業省が包括的に許可を与える制度があります。
 ホワイト国向け限定の制度として,一般包括許可(ホワイト包括)があり,特別一般包括(特一包括)許可で必要な輸出管理内部規程(CP)の届出、検査官室の実地検査等が不要なため,非常に簡便な手続で輸出等が可能となります。
        
(5)ホワイト国
 さて、キャッチオール規制の例外となり,一般包括許可の対象となりうる「ホワイト国」とは,大量破壊兵器等に関する条約に加盟し、4つの輸出管理レジームに全て参加し、キャッチオール制度を導入している国であり,これらの国から大量破壊兵器の拡散が行われるおそれがないことが明白であると我が国の内閣が認めた国(輸出貿易管理令別表第3)をいいます。
 アジアでは唯一韓国のみがホワイト国でしたが,昨今の韓国と北朝鮮(懸念国,武器輸出禁止国)との関係性,輸出管理に係る協議の申入れに対する韓国の姿勢等に鑑みれば,我が国が韓国をホワイト国から除外することには理由があると考えます。
        
※輸出貿易管理令別表第1(外国為替令別表)の各項番の種別
(1)武器,(2)原子力,(3)化学兵器,(3の2)生物兵器,(4)ミサイル,(5)先端素材,(6)材料加工,(7)エレクトロニクス,(8)電子計算機,(9)通信,(10)センサ,(11)航法装置,(12)海洋関連,(13)推進装置,(14)その他,(15)機微品目
        
※ホワイト国(韓国除外後)
アルゼンチン,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,ブルガリア,カナダ,チェコ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシャ,ハンガリー,アイルランド,イタリア,ルクセンブルグ,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,ポーランド,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,スイス,英国,アメリカ合衆国

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